りぼんの読書ノート

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倒壊する巨塔-アルカイダと「9・11」への道(ローレンス・ライト)

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昨年の「ニューヨーク・タイムズ最優秀図書」であり「ピュリツァー賞」受賞作品。「アルカイダ」の思想的背景からその誕生、そして「9.11テロ」に至る軌跡を丹念に追いかけて、彼らの「実像」を伝えるノンフィクション作品です。

そもそも、同じイスラム教徒である無辜の民をも無差別に巻き込む「テロの原理」はどこからきたのか。著者は、比較的穏健な組織であったエジプトの「ムスリム同胞団」が政府の弾圧によって過激化した「ジハード団」にルーツを求めます。実際にアルカイダの誕生は、ザワヒリの率いるジハード団が、それまで実体のなかったウサマ・ビンラディンの組織と合体した1980年代に求められるようです。当時ジハード団は、サダト大統領などの要人暗殺を起こした結果、エジプト国民から激しい非難を受けて活動拠点を国外に求めていたのです。

アッザーム師、ハジエル師、オマル師などのイスラム宗教指導者たちも責任を担います。「背教者はジハードの対象になる」とのファトワ(教義判断)は、拡大解釈され続け、現在では、テロに巻き込まれた者の死まで正当化されるに至っているのですから。

一方、サウジ王家と親交の深いビンラディン家の末子であるウサマは、アフガニスタンの反ソ連ゲリラ・ムジャヒディンを支援するため、アラブ義勇軍を率いて参戦しましたが、その実体はお粗末なもので、実戦参加の機会すらほとんどなかったようです。その後、ソマリア内戦やスーダン紛争に協力しながらも、単なる「金づる」扱いを受け、国際的非難を恐れたサウジ王家から絶縁されて資金源を失うと、支持者も激減。しかし、そんな「逆境」の中で「狂信的な夢想家」でい続けたことが、彼のカリスマ性を増すことになるのですから、不思議なもの。

やがてウサマとザワヒリは出会い、理念と実体が統一された組織はケニアタンザニアアメリカ大使館爆破事件や、イエメン沖の米艦コール襲撃事件などのテロを引き起こし、「9.11」へと進んでいきます。

本書ではオニールFBI特別捜査官や、クラークNSC対テロ調査官など、アメリカでテロリストを追う側の活動も描かれますが、「複雑な官僚組織」と「敵の過小評価」が捜査を阻む様子は、読んでいて歯がゆいこと。ヒーローを産まない非効率性こそが、民主主義国家の特徴であり、ある意味ではやむをえないのかもしれませんが・・。

本書の優れた点は「相手を異化せず、理解に努める姿勢」ですね。実際、ウサマやザワヒリという個人は、そのあたりのカルト教団のカリスマ指導者と大差ないのかもしれません。「近代化や異文化に対する違和感、葛藤、嫌悪感」などは、歴史上あらゆるところに見出せるものなのです。しかし、彼らの主張を背景にして多くの一般人がテロに走る「異常な社会現象」が起きているのも事実です、何が彼らを反アメリカテロに駆り立てているのか、そちらの分析は、本書の対象外なのですが・・。

2009/10