りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ハチはなぜ大量死したのか(ローワン・ジェイコブセン)

イメージ 1

2006年以降、北半球に棲息するセイヨウミツバチの1/4が消滅しています。女王や幼虫を残したまま、突然働きバチが失踪して、コロニーが崩壊していくのです。著者は、「蜂群崩壊症候群(CCD)」と名づけられたこの現象に、多面的に挑みます。

そもそも現代の養蜂業は、蜂蜜を採るためというより、果物や野菜が実を結ぶための受粉の仲立ちをさせることを主目的にして、極めて効率的に運営されているんですね。他の昆虫も媒介をしますが、ミツバチの組織力は群を抜いており、アーモンドなどの北米の果樹産業は、ミツバチなしでは成り立たないほどに利用されているとのこと。CCDは、ミツバチだけの問題ではなく、生態系全体の問題なんですね。著者は、現在の生態系の一番弱い環は「受粉生物」なのではないかと言ってます。

では、何が原因なのか。著者は原因と考えられる事項を、次々と検証していきます。ダニ、ウイルスといった新種の伝染病、昆虫を標的としたネオニコチノイド系農薬、 ミツバチの遺伝子に多様性がないこと、農業経済に組み込まれた結果、遠隔移送や冬眠機会の喪失やシロップの授与など、自然界でのあり方とかけ離れてしまったこと・・。このような問題では、名探偵のように、犯人をズバッと指摘できるものではありません。原因は複合的であり、従って、対策も複合的にならざるを得ないのです。

しかし、もっともショッキングなのは、「ミツバチは以前から死にたがっていたのではないか」との指摘にほかなりません。生物界では時に圧倒的な個体数削減が起きますが、それは「種の保存プロセス」の一環。通常は免疫力が強いなどの「強い固体」が生き残り、力強さを増した種としての復元を果たすようになるというのです。ミツバチも、ダニやウィルスなどによって「個体数調整」が起こるタイミングであったのを、人為的な抗生物質の投与、対ダニ農薬の散布、栄養剤の供給などによって、いたずらにそれを引き伸ばしていたのではないか。それはミツバチにとっては長く続く拷問のようなものだったのではないか、との指摘なんですね。

今回のCCDは、ミツバチとして「種の復元」に至る最後のチャンスなのか。それとも、自然な個体数削減機会を引き伸ばした結果、復元力を失う地点を超えるほどの大きな波を被ることになって、「絶滅」に至る道を歩み始めてしまうのか。問題はシリアスです。そして同じ道を、現代の「人類」も歩みつつあるのではないかとまで思えてしまうのです。

2009/10読了

イメージ 2