りぼんの読書ノート

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天冥の標10.青葉よ豊かなれ Part 3(小川一水)

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10年に渡って書き継がれてきた、全10巻、16冊の大シリーズがついに完結しました。全宇宙的な対立軸の末端で翻弄され、絶滅の一歩手前まで追い込まれてしまった人類は、対決の最前線で宇宙種族たちに何をもたらすことができるのでしょう。

 

6千万年もの長い年月に渡って単一個体であったオムニフロラに生殖繁殖の魅力を教えて、遺伝子の罠を仕掛けようという提案は、樹木族を率いるアカネカを惹きつけたものの、カルミアンの総女王オンネキッツからは拒まれてしまいます。ではその改良版である「控えめに魅力的な種」との提案は、有効とみなされるのでしょうか。

 

最終巻らしく、惑星カンム防衛殻攻略戦とか、超新星爆発に対する迎え火作戦など、派手な見どころにも事欠きませんが、やはり登場人物たちひとりひとりの行く末は気になりますね。ダダーとミスチフという宇宙的宿敵同士の再会、医師団のカドムと救世群のイサリという運命のカップルの結びつき、アンチヨークスのアクリラが果たすべき新しい役割、ラバーズのラゴスが見出した新たな連れ合いなど、相当に意表を衝くものもあり、それぞれに収まるべき場所に収まった感があります。著者が最終章前の幕間を6度も書き直したという心境も十分に理解できます。

 

「天冥の標」のタイトルが意味するものは、「昏い宇宙を照らす道標」のことなのでしょう。意志の疎通もままならず、対立軸も多い異種族たちを結び付けたものとは、いったい何だったのか。青葉が千茅に手紙を渡し続けたという、600年以上前のエピソードが最終章に据えられたことに、著者の意志を感じないわけにいきません。真心がこもった言葉は必ず届くのです。もう一度はじめに戻って再読してみたいほど満足できましたが、それはもっと後の楽しみにとっておきましょう。

 

2019/7