りぼんの読書ノート

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盆栽/木々の私生活(アレハンドロ・サンブラ)

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1975年生れのチリの若い作家による小説は、南米文学らしい幻想性も、独裁政権に対する激しい抗議精神もない。淡々とした語り口に意表を衝かれるかもしれません。タイトルである「盆栽」のような、ミニマリズム的な世界が広がっているのです。

「盆栽」
学生時代の恋人エミリアがスペインで自殺したことをラジオで知らされたフリオが、当時の2人の生活を振り返ります。一緒に読んだ数々の本。もう読んだと嘘をついたプルースト。一緒に育てていた小さな植木。作家の原稿清書というバイトを手に入れられなかったフリオは、作家になり代わって作品を書きはじめます。それでも小説家になれないフリオの彷徨・・。でも、2人の別れの様子や、エミリアの「その後」は語られません。喪失感だけが深く残されます。

「木々の私生活」
妻ベロニカの帰宅を待つ間、幼い義理の娘ダニエラを寝かしつけるために自作の物語「木々の私生活」を語り聞かせる日曜作家のフリアン。ベロニカと出会った過去の記憶。ダニエラが成長していく未来の記憶。大人になったダニエラが、日曜作家だった義父フリアンが残した唯一の小説を手に取る瞬間。それはフリアンの想像なのか。小説の一場面なのか。妻は帰ってくるのか、こないのか。やはりテーマは不在と喪失なのでしょう。

「ものを書くことは、盆栽の世話をすることに似ている」と作中人物に語らせた著者が、ミニマルな文体で短く刈り込んだ小説は、深い余韻を残します。

2014/4