りぼんの読書ノート

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最後の秘境東京藝大(二宮敦人)

藝大生の妻を持つ著者は、彼女の突拍子もない行動に何度も驚かされます。夜中に巨大な陸亀の木彫りを始めたり、自分の等身大全身像を作るために身体に半紙を貼り付けて紙型をとったりするのですから。そして藝大生に興味を抱いて潜入取材をした結果、著者は「天才たちのカオスな日常」を発見してしまったのです。

 

東大の3倍という入試倍率を持つ東京藝大は、受験最難関校のひとつです。しかも実技が問われるため、ガリ勉すれば入れるものではありません。しかしそんなエリート校であるのに、卒業生の半分くらいは行方不明となる「ダメ人間生製造大学」であるのは何故なのでしょう。しかもまるで別の学校であるかのように学生のキャラも勉学態度も校風も異なる音校と美校でも、行方不明者の比率は変わらないのです。もっとも芸術家を目指す学生たちにとっては、就職などすることは脱落を意味するのかもしれません。そもそも何年かに数名の大天才を生み出すことが藝大の目的であるなら、行方不明者の比率など無意味な数字なのでしょう。

 

著者がインタビューした多くの学生たちの専攻や目標な生態から成り立っている本ですが、個別のケースまで記録しようとするとキリがありません。誰が見ても正統派である分野で成功することの難度の高さや、これが芸術かと考えてしまうような独創的な分野があること、好きなことに好きなだけのめりこめる学生生活。今まで知らなかった世界です。藝大祭に行ってみたくなりました。

 

2022/9