りぼんの読書ノート

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からころも(篠綾子)

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紫式部の娘。賢子』シリーズでブレークした著者による、「万葉集歌解き譚シリーズ」の第1弾。日本の古代に造詣の深い著者の作品ですが、本書の舞台は江戸時代。日本橋の薬種問屋・伊勢屋に奉公する12歳の助松が、賀茂真淵先生から和歌を学んでいる17歳の伊勢屋の娘・しず子や謎の陰陽師・葛木多陽人と組んで、万葉和歌に秘められた謎を解いていく物語。しかも解かなくてはならない謎は、行方不明になった助松の父親・大五郎の過去に関係しているのですから、必死にならざるをえません。

 

伊勢屋の手代であった大五郎は、1年半前に伊勢屋の仕事で越中富山に出かけたまま消息を絶ってしまいました。残されたヒントは、父から誰にも見せぬように言われて預かった日記のみ。そこに書き込まれた万葉集の和歌の意味をしず子に尋ねたことから、2人は過去に富山で起こった事件に関わることになってしまいました。しかも、ある偶然から知り合った大友主税と名乗る青年武士とともに、今度はしず子が行方をくらましてしまうのです。2人の失踪には関係があるのでしょうか。困り果てた助松は、伊勢屋の客で万葉集に造詣の深い葛木多陽人に相談するのですが・・。

 

万葉集のスターである大伴家持は、越中守として現在の富山に赴任していた時期があり、富山で詠んだ歌も多いとのこと。下って江戸時代の富山藩の一大産業は薬であり、全国を股にかける薬売りは有名ですが、製薬方法は藩外不出とされていました。実は大五郎は富山出身であり、薬に関する過去の事件の真相を、馴染んでいた万葉和歌に託していたのです。

 

ラストで明らかにされる大五郎の正体と助松の出自には驚かされるものの、ミステリとしてはどうなのでしょう。万葉和歌の魅力は伝わるものの、かなり薄い関係を強引に結び付けたような印象をぬぐいきれません。やはり著者には、ストレートに日本古代を舞台とする作品を書いて欲しいものです。もっとも今の日本では、時代小説というと江戸時代ものしか売れないようなので仕方ないのかもしれませんが。

 

2021/6