りぼんの読書ノート

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昭和の犬(姫野カオルコ)

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まるで「犬」について語ったようなタイトルですが、主人公は昭和33年に生まれた女性の柏木イク。中年女性となったイクが自らの半生を「遠近法的に」振り返り、いつも傍らには犬がいたことを思い起こす物語。著者は5回目のノミネートで、2014年に本書で直木賞を受賞しました。

「遠近法的に」というのは、過去について当時の視点から「進行形」で綴りつつ、「後年になってわかること」を書き込んでおくことなのでしょう。「近くにあるものほど掴めない」のは、カメラの焦点だけではないのです。

ララミー牧場」、「宇宙家族ロビンソン」、「バイオニック・ジェニー」など、当時のTV番組が並ぶ章題の音に綴られるイクの半生は、一言でいうと「激動の昭和を生きた平凡な女」ということでしょうか。それでも、現代から当時を振り返ると、「かなりの激動」に見えるのかもしれません。

10年間のシベリア抑留で人格を病んだ父親や、不幸な結婚を呪って娘を愛さなかった母親と暮らした少女時代。滋賀から脱出して上京した後も、彼女の生活はつつましやかで、バブルなどとは無縁です。当時既に珍しくなっていた「貸間」に住み続け、銭湯、名画座、コミュニティ・センターをめぐる日々。独身のままで迎えた中年以降は、両親の介護のために東西を行き来する日々。

それでも、いつも傍らには犬がいたんですね。その犬種にも雑種、コリー、シェパード、テリア系ミックスの「ベンジーの犬」、シベリアンハスキーと、時代の移り変わりを感じます。著者は本書について、「要するに私が好きだった歴代の犬の話を書こうとしたんです」と語っています。まさに「犬は世につれ」なんですね。

2016/7