りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ぼくはお金を使わずに生きることにした(マーク・ボイル)

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イギリスで1年間お金を使わずに生活する実験をした、29歳の若者の記録です。

もちろん現代社会でお金を100%否定することは不可能なので、トレーラーハウス、太陽光発電設備、自転車、パソコン、衣服などの備品は事前に購入。遠い距離の移動はヒッチハイク。栽培と採集だけでは不足する食糧入手は期限切れ廃棄品に頼るなど、資本主義の仕組みに乗らざるをえない部分もあるのです。

だから「お金を使わないことのルール」を定めることが必要であり、厳密な「カネナシ生活」というわけではないのですが、それでも凄いことには違いありません。生活の基本は「物やサービスの交換」であり、共通の価値尺度がないので不公平を疑い出せばきりがないのですが、そこは仲間どうしでバランスを取り合うのでしょう。「贈与経済」である「ペイ・フォワード」は理想にすぎますので。

著者は、ひとつの「フリーエコノミー共同体」の適正人数は150人くらいではないかと述べています。お互い顔見知りになって濃密な人間関係を築けると同時に、各分野のエキスパートが揃う水準ですね。しかし、このような生活をするには「人間力」つまり「コミュニケーション能力」が必要とされそうです。ある意味、お金を手に入れるより難しいようにも思えます。

とはいえ、著者の実験が「行き過ぎた貨幣経済」への警鐘であることは間違いなさそうです。「フリーエコノミー運動は熱心に支持されるか反対されるかのどちらか」という著者のコメントが、それを裏付けていますね。多くの人々にとって、無視したり、放置したりできないということなのですから。

少々気になるのは、「フリーエコノミー」が行きつく先は「人口の適正化=人類の大減少」ではないかと思えることです。地球的危機の主要な原因が人口爆発である一方で、窒素固定化技術なしで地球が養える人口は40億人が限度であったという説もありますから。(参考:大気を変える錬金術(トーマス・ヘイガー))そして、ひとたび数的減少を開始した種は、ほとんど例外なく滅亡への道を歩んでいるのです。

2016/7