りぼんの読書ノート

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眩(くらら) 朝井まかて

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葛飾北斎の娘であり、偉大な父に「美人画にかけては敵わない」と言わしめたお栄こと葛飾応為の半生を描いた作品です。応為を主人公にした作品では山本昌代さんの応為坦坦録が有名ですが、河治和香さんの国芳一門浮世絵草紙3 鬼振袖に登場したり、映画「北斎漫画」では田中裕子さんが演じるなど、なかなか魅力的な人物なのです。

彼女の代表作には、昨年「美の巨人たち」で扱われた「夜桜美人図」や「吉原格子先之図」などがありますが、どちらも当時の日本画にしては珍しく陰影や遠近を巧みに取り込んだ傑作です。彼女の名前で残っている作品が少ないのは、北斎の右腕であったため北斎との共作や代筆が多かったせいとも言われています。

本書はそんな応為を、父親の偉大さに打ちひしがれそうになりながらも、「眩々するほどの息吹を描きたい」と自分だけの光と色を終生追い続けた画家として、見事に描き出しました。自分を理解してくれなかった南沢等明と離縁し、兄弟子の渓斎英泉に対する叶わぬ恋心を抱き続け、悪事を重ねる甥に悩まされながらも、そういった俗事は全て作品の中に昇華されていったかのようです。

彼女の晩年は不明であるため、本書でも何処へと出奔したかのようなエンディングになっていますが、最期まで画筆を折らなかったと思いたいものです。

2017/5