りぼんの読書ノート

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下町ロケット 2(池井戸潤)

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前作下町ロケットでは「ロケット品質のバルブシステム」を製造して中小企業の「ものづくりの意地」を示した佃製作所ですが、ひとつのヒット商品だけで生きていけるほど経済界は甘くはありません。

帝国重工による次世代ロケットエンジン開発では、NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペとなり、自社開発主義から脱しきれない帝国重工内には、どうやら共同開発方式を採用したライバル企業のほうを推す勢力がいる模様。

一方で、やはり大手の医療機器メーカー・日本クラインから持ち込まれた人工心臓用のバルブ開発は、試作品の提供のみで打ち切られ、量産取引は同じライバル企業に奪われてしまいます。佃はこの経験を活かして、地方大学と地方企業と共同で、心臓に埋め込む人工弁「ガウディ」の共同開発に乗り出すのですが・・。

白い巨塔」を思わせる医師会の序列と、医師と結託している医療メーカーや許認可機関の旧態依然とした体質の闇は深そうですね。帝国重工の官僚的な体質や複雑な人間関係ですら、むしろ「風通しが良い」と思えてしまうほど。佃製作所の医療界への挑戦は、ハードルが高そうです。

もちろん、銀行出身者とはいえ「ものづくり」の大切さを重視している著者が、佃製作所の危機を放置して開発を断念させるわけはありません。最終的には敵失もあってハッピーエンドになるのですが、もしライバル企業が技術・コストの面で本当に優れていたなら・・と思うと背筋が寒くなります。そして現実世界は、このようなケースで溢れているのです。

2017/5