りぼんの読書ノート

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ビリー・バスゲイト(E・L・ドクトロウ)

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1991年にダスティン・ホフマンとニコル・キッドマンの共演で映画化された作品です。主人公の少年ビリーを演じたのは当時22歳のローレン・ディーンですが、原作では15歳ですからちょっと大人すぎたかもしれません。主演の2人は、ギャングのボスのダッチ・シュルツと、情婦のドリューを演じています。

 

大恐慌のただ中にあった1935年のブロンクスで、精神を病んだ母親と2人で貧しい生活をしている少年ビリーは、手っ取り早くアメリカン・ドリームを掴もうとしてギャングの世界に飛び込んでいきます。持ち前の機転の良さと怖いもの知らずの度胸で、シュルツに見込まれて一味の使い走りとなり、次第に重用されていくビリー。しかし彼には知る由もありませんでしたが、当時のシュルツはすでに転落の過程にあったのです。犯罪組織の再編合理化を目論む大物マフィアに併合されることを拒んだことで狙われており、当局からは脱税容疑で追われていたのです。

 

そんな状況下にあるのでシュルツの仕事は次第に荒っぽくなっていきます。裏切り者の粛清や、マフィアとの銃撃戦、さらには政府の特別捜査官の殺害を公言するに至って、ついに犯罪組織の大ボスたちから殺害指令が出されてしまうのです。そしてビリーは、憧れていたギャングの世界が虚飾と裏切りにまみれたものであることを思い知らさて恐怖に震えます。はたして彼は生き延びて、彼なりのアメリカン・ドリームを掴むことができるのでしょうか。

 

本書は少年の成長物語であると同時に、1930年代のアメリカの世情とギャングの世界を見事に描き出した作品としても高く評価されています。シュルツをはじめとする一味のメンバーも、彼と対立する大物マフィアのルツィアーノも、特別捜査官のデューイも実在した人物であり、本書に登場するエピソードも概ね史実に沿っているとのこと。そんな激動の時代の中で、まるでトム・ソーヤーやハックルベリー・フィンのように生き生きとした少年を描き出した本書は、エネルギッシュです。著者のもうひとつの代表作である『ラグタイム』は、この時代より前の20世紀初頭を舞台とした物語だそうですが、そちらも読んでみたくなりました。

 

2021/8