りぼんの読書ノート

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邪眼(ジョイス・キャロル・オーツ)

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1950年代のニューヨークを舞台にして、虐げられた少女たちが秘密のグループを作って不条理な世間に立ち向かう『フォックスファイア』の著者によるゴシック・サスペンス集です。「うまくいかない愛をめぐる4つの中編」とのサブタイトルがついています。かなり直接的に暴力が取り扱われていますが、どの作品でもそうすることが必要だったのでしょう。彼女に先行するエドガー・アラン・ポー、ほぼ同時代のコーマック・マッカーシー、おそらく後輩であるボストン・テランらと並べてみると、明らかにアメリカ文学の一つの系譜をなしています。

 

「邪眼」

両親を失って心身ともに弱っていたマリアナは、30歳も年の離れた大御所の男性に優しくされて、彼の4番目の後妻となります。しかし最初の元妻の来訪をきっかけにして彼女は、夫が妻の個性を愛するのではなく妻を従わせようとするモラハラ男だということを理解してしまうのです。よくある若き後妻の受難物語のようですが、部屋を飾り立てる調度品の使い方や、オープンになっているエンディングが効果的です。

 

「すぐそばに いつでも いつまでも」

図書館で出会った素敵な男性に恋をしたリズベスは、まだ恋に恋するお年頃。しかし彼女は、ふとした彼の言動に違和感を覚えるようになるのです。純真な初恋が悪夢へと変貌していく過程が、揺れ動く少女の心理状態を通して描かれていきます。

 

「処刑」

両親を恨んでいる身勝手な大学生が、両親を殺害しようとしています。しかし完璧と思えた計画に狂いが出て、父親は絶命したものの母親は重傷を負ったものの生き残りました。なぜか息子の犯行を否定する母親の思いは語られませんが、彼女の内面には何があったのか想像してしまいます。

 

「平床トレーラー」

一族の重鎮だった人物から幼い頃にいたずらされたトラウマによって、セシリアはセックス恐怖症になってしまいました。しかしそのことを初めて打ち明けた恋人は、彼女に代わってその人物への復讐を果たすのです。しかし彼女はそれによって解放されたのでしょうか。むき出しの暴力を目の当たりにしてエクスタシーを感じたセシリアもまた、病んでいるのでしょう。

 

2021/8