りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

呪われた腕(トマス・ハーディ)

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村上春樹さんは「ハーディを読んでいると小説が書きたくなる」とコメントしています。「村上柴田翻訳堂」シリーズの一冊として復刻された「ハーディ傑作選」には、悲劇的な運命に翻弄される人々を描く8編の短編が収録されています。かなり昔に読んだ『テス』を思い出しました。

「妻ゆえに」
友人へのライバル心から愛していない男性と結婚した女性の、不幸な生涯が描かれます。見栄っ張りでもあるその女性は、夫と息子たちを一獲千金の航海に送り出すのですが、やはりその報いを受けてしまうのでした。ライバル視していた女性の同情で余生をすごし、最後には精神に変調をきたすという展開には救いがありません。

「幻想を追う女」
夢見がちな人妻の妄想が、会ったこともない才能ある詩人への恋心を募らせてしまいます。ようやくデートにこぎつけようとした矢先に、その詩人は自殺。人妻も後を追うように病死してしまうのですが、桃がタリはそこで終わりませんでした。彼女が遺した息子は、なぜか詩人にそっくりだったのです。

「わが子ゆえに」
牧師の後妻となった小間使いの女性が、牧師の死後に身分相応の再婚を願いますが、それを阻んだのは息子でした。彼女は、母親の出自を恥ずかしく思うように育った息子によって、生涯閉じ込められてしまうのです。

「憂鬱な軽騎兵
ドイツ人の軽騎兵と駆け落ちしようとした女が、最後の瞬間に心を翻してしまいます。それは、別の男性からの偽りの求婚のせいだったのですが、彼女は生涯、それを悔いることになってしまうのです。

「良心ゆえに」
20年前にすっぽかした結婚の約束を果たした男でしたが、その結果、本人も、女も、娘も不幸になってしまいます。

「呪われた腕」
農場主の若妻の腕に不思議な痣ができたのは、かつて農場主と関係を持ち、その子どもを産み育てている乳搾り女の生き霊の仕業だったようです。若妻を恨んでなどいないという乳搾り女は農場を去りますが、不思議な痣はひどくなるばかり。そして2人の女性は、農場主の息子が無実の罪で縛り首となる瞬間に再開するのですが・・。やはり2人の女性は内心で暗い思いを持ち続けていたのでしょうか。

「羊飼の見た事件」
妻の不倫を疑った公爵が、妻の幼馴染を殺害してしまいます。公爵は、その現場を目撃した羊飼いの少年を口止めして経済的な援助をするのですが、その報いは22年後に訪れることになるのでした。

アリシアの日記」
妹の婚約者と恋に落ちてしまったアリシアが、自分と妹の幸せを天秤にかけながら策謀をめぐらす様子が、彼女自身の日記という形式で綴られます。アリシアは完全に「信用ならざる書き手」ですね。ここで綴られているのは誰の悲恋なのか、さまざまな読み方ができそうな現代的な作品になっています。

2017/9