りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

寂しい丘で狩りをする(辻原登)

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ストーカーや性暴力への警察や社会の認識が不足していた1990年代。映画のフィルムエディターとして働く野添敦子は、かつて自分をレイプして逮捕された凶悪犯・押本史夫が出所して復讐の機会を狙っていると聞いて、脅えます。一方で、敦子に依頼されて押本を尾行する女性探偵・桑村みどりもまた、交際相手であった久我のDVから逃れるべく転居したばかりでした。忌まわしい記憶と暴力を越えて、彼女たちは自らの人生を取り戻すことができるのでしょうか。

本書は、暴行被害を警察に訴えたことを逆恨みされて女性が殺害されたという、実際に起きた事件に想を得ているとのことですが、もちろんそんな救いのない物語ではありません。「脅迫された女性が逃げるばかりでなく、最後には振り返って立ち向かう物語を書きたかった」との著者の言葉にあるように、彼女たちは協力して戦うのです。そしてその協力関係は、彼女たちの「その後」を支えるものにもなっていくのです。

かつて映画館で映写技師であった押本が上映したことがある、山中貞雄の幻の初監督作品フィルムを、敦子が捜し求めて修復するという因縁が、サイドストーリー的に挿入されています。時代背景を現わすガジェットでもあるのですが、みどりだけでなく敦子もまた「追う者」であったことを示しているのでしょう。音もなく少女は(ボストン・テラン)の日本語版ですね。

2014/8