現代は、ポピュリズムによって生み出され、ネットによって増幅される新たな分断の時代なのでしょうか。新型コロナという全人類にとっての災厄ですら、分断を広げる方向に働いているように思えます。そんな時には、過去に何度もあった分断の時代の中で、静かに戦った人たちを描いた作品が心を癒してくれるようです。そして自分に何ができるのかを考えさせてくれるのです。
1.彼女たちの部屋(レティシア・コロンバニ)
パリに女性会館(Palais de la Femme)という救世軍の施設があります。300ほどの居室を有し、困窮して住む場所を持たない単身女性や母子を国籍を問わずに受け入れている、20世紀初頭に建設された歴史的建築は、どのようにして今の姿になったのでしょう。本書は、現代のパリでボランティア活動を行う女性ソレーヌが、1920年代のパリでこの施設を作るために戦った救世軍の女性ブランシェを再発見する物語です。世界的にヒットした『三つ編み』の著者の第2長編も、静かな感動を呼び込む作品でした。
26歳でアウシュヴィッツで亡くなった画家シャルロッテは、短い人生の晩年に「人生?それとも舞台?」と名付けた芸術作品を描き上げました。それは769点もの水彩画の連作に、語りや台詞や音楽の指示まで付された総合芸術なのですが、なぜ彼女はそのような作品を遺したのでしょう。著者は彼女がそんな大作を製作するに至った理由を追い求めていきます。彼女の作品と悲劇的な人生に衝撃を受けた著者が、8年の歳月をかけて書き上げた作品です。
3.ひとり旅立つ少年よ(ボストン・テラン)
南北戦争直前の時代。ニューヨークの牧師から奴隷解放運動資金の名目で大金を巻き上げた末に、悪漢に殺害された父親の贖罪の旅に出る少年。彼は、その大金を本来の約束通り奴隷解放運動家たちに届けるべく、ミズーリへ向かったのです。奴隷制によって分断された世界の中で少年は、行く先々で悪党たちによって危地に追い込まれ、またその一方で善意の人々によっても救われていきます。この作品が2018年という新たな分断の時代に書かれたことは、決して偶然ではありません。
【次点】
・愛なき世界(三浦しをん)
【その他今月読んだ本】
・蒼色の大地(薬丸岳)
・人生の段階(ジュリアン・バーンズ)
・ホーム・ラン(スティーヴン・ミルハウザー)
・雨上がり月霞む夜(西條奈加)
・虹色天気雨(大島真寿美)
・奈良・京都の古寺めぐり(水野敬三郎)
・サガレン(梯久美子)
・忘却についての一般論(ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ)
・ののはな通信(三浦しをん)
・私はゼブラ(アザリーン・ヴァンデアフリートオルーミ)
・ダーク・ブルー(真保裕一)
・サイバー・ショーグン・レボリューション(ピーター・トライアス)
・罪の声(塩田武士)
・地球のはぐれ方(村上春樹ほか)
・月人壮士(澤田瞳子)
・ツインスター・サイクロン・ランナウェイ(小川一水)
・孔丘(宮城谷昌光)
・後継者たち(ウィリアム・ゴールディング)
2021/2/27