りぼんの読書ノート

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世界の果てが砕け散る(サイモン・ウィンチェスター)

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著者は、地質学を専門とする科学ノンフィクションライターです。しかしながら、1906年のサンフランシスコ大地震について書かれた本書は、「科学書」の枠を超えて「歴史書」とでもいうべき多面性を備えています。そのあたりは、クラカトアの大噴火世界を変えた地図と同様ですね。

サンフランシスコは、太平洋プレートと北アメリカプレートの境界であるサンアンドレアス断層の真上にあり、昔から地震の多い地域として知られていました。それでもそこに都市が築かれたのは、港として絶好の位置にあったことに加えて、1849年に始まったゴールドラッシュによる所が大きかったようです。金はすぐに枯渇したものの、人口は爆発的に増え、優秀な人材も集まっていたのです。

当時のサンフランシスコには、著名なテノール歌手カルーソーや作家のジャック・ロンドンアンブローズ・ビアス、当時4歳で後に写真家となるアンセル・アダムズなどの著名人や、当時の記録を遺した多くの人々が住んでいました。彼らがそれぞれに運命の日を迎える様子は、ハリウッドの災害映画を髣髴とさせる群像劇のように描かれていきます。そしてその日からまた、地震学の発展や、都市の再開発などに携わる人々の新しいドラマが始まっていくという展開は、なかなかダイナミックです。

この大地震を契機として、サンフランシスコは西海岸での覇権をロサンゼルスに譲ることになり、カルト的なキリスト教ペンテコステ派の大躍進が始まり、中国移民排斥の流れも強まりました。本書では触れられていませんでしたが、日系移民も襲われたり財産を没収されるとの事件も頻発したとのこと。

そして著者は警告するのです。人間時間の単位では地震予知は不可能だが、地質学的時間では、この地域に大地震が発生することは不可避であると。またそれと関係して、イエローストーンがスーパーボルケーノ化すれば、アメリカ西部は全滅する可能性があると。いったんこのような警告を聞いてしまうと、人生観が変わってしまいそうです。2006年の出版ですが、3.11を体験せざるをえなかった日本人には、今でもタイムリーな作品でしょう。

2014/8