りぼんの読書ノート

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ロマンシェ(原田マハ)

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かつてMOMA勤務経験もある著者による「青春xアートxラブコメ」は、謎めいたアート窃盗集団を主人公に据えた『アノニム』よりもずっといい作品に仕上がっています。 

 

本書の主人公は、政治家を父に持つアーティストの卵であり、同性を恋愛対象として感じてしまう乙女男子の遠明寺美智之輔。日本の美大を卒業後、単身パリに留学したものの、本格的な勉強や制作をするでもなく、ゆる~い生活を送る毎日。しかし偶然バイト先に選んだリトグラフ工房での生活が、彼を変えていくのです。 

 

いつも現代アーティストが職人たちとリトグラフを制作している「idem」という工房には、ライブ感があふれていました。しかもそこには、美智之輔が憧れていた、性別も年齢も非公開にしている羽生光晴というハードボイルド小説家が密かに匿われていたのです。かくして美智之輔は、新作小説や映画化権を争う連中から羽生光晴を守りながら、リトグラフ制作に取り組むことになってしまったのですが・・。 

 

過去にピカソなどの有名芸術家たちも作品を生み出してきた「idem」という工房は実在しています。それどころか本書は、東京ステーションギャラリーで2015年末から2016年初にかけて開催された「idem展」と同時進行で執筆された作品であり、ラストが「idem展」の開催に繋がっていくというコラボ作品なのです。展示会のタイトルは「君が叫んだその場所こそが、ほんとの世界の真ん中なのだ」であったとのこと。「青春xアートxラブコメ」にふさわしいタイトルです。 

 

2019/12