りぼんの読書ノート

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キネマの神様(原田マハ)

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元美術館キュレーターで『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』など美術を題材にした作品が多い著者ですが、映画好きなことでも知られています。かなりユニークな父親が「無条件に許してくれたのは、読書、映画、美術であった」と、先日あるTV番組で話されていました。

本書の前半1/3は著者の私小説に限りなく近いとのことです。39歳で未婚の歩が会社を辞めたのと同時に、映画とギャンブルだけが趣味という父親が倒れ、多額の借金が発覚してしまいます。退院したもののギャンブルを禁止されて居場所を失った父が、雑誌「映友」に歩が書いた映画評を投稿したのをきっかけとして転機が訪れます。歩は編集部に採用され、独特の味のある映画の感想を評価された父親も、雑誌が運営する映画ブログを始めることになりました。そして「キネマの神さま」への家族の祈りは通じたかと思われたのですが・・。ちなみに、本書の中盤から後半にかけての2/3は、著者の希望だとのことです。

ニュー・シネマ・パラダイス」をはじめとして、父娘が行きつけの名画座にかかる映画が、どれも素晴らしい。本書では奇跡的に名画座も救われますが、現在の日本で名画座というものが生き残っているのでしょうか。それどころかネット配信によって、シネコンなどのロードショー上映館の存続すら危うい感もあります。1カ月か2カ月に1度のペースで映画館に通っていますが、コロナ禍の前ですら、ほとんどいつも空いていました。とりわけアクション系でない洋画は壊滅的なのです。

本書は山田洋二監督によって映画化されましたが、映画製作者サイドの視点を織り込んだものであり、原作とはだいぶ異なっているとのことです。なんと『キネマの神様』を原作とした脚本を原作にして、『キネマの神様 ディレクターズ・カット』という小説も生まれたとのことです。こちらは映画を見てから読んでみましょうか。

2022/3