りぼんの読書ノート

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シェルシーカーズ(ロザムンド・ピルチャー)

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眠れる虎の読後感が良かったので、著者の代表的長編である本書も読んで見ました。

本書の主人公は、コッツウォルズで一人暮らしをしている64歳のペネラピ。画家の娘としてコーンワルで輝きに満ちた少女時代を送り、貧しい戦時下も懸命に生きぬき、誤った結婚と素晴らしい恋をして、3人の子供たちを育てあげたペネラピは、心筋梗塞を起こして病院から退院したところ。人生の終わりを意識し始めています。

しかし彼女の子供たちは、雑誌の編集長として独立している次女オリヴィアを除いて、自分勝手に育ってしまったようです。嫁いで子供もいる長女ナンシーは見栄とプライドの塊で、身分不相応の生活を保つのに苦しんでいます。末っ子のノエルは自己中心的な夢想家でしかありません。2人の関心は、近年になって価値が高まってきた祖父が遺した絵画にしかなさそうです。

タイトルの「シェルシーカーズ」とは、ペネラピの手元に唯一残っている父親の大作のことであり、もちろん彼女はそれを手放すつもりはありません。ナンシーやノエルからの絵を売って欲しいという依頼に対して、彼女は家庭内の亀裂を引き起こす意外な行動に出るのです。しかし彼女が送ってきた人生を知った読者にとっては、その行動は意外ではありませんね。彼女は最後まで、自分の価値観を大切にしただけのことなのですから。

本書はヴァネッサ・レッドグローブ主演で、2006年に英独共同作品としてTVドラマ化されたとのこと。名作「ジュリア」でアカデミー助演女優賞を獲得した、孤高の老女優にふさわしい作品になったことと思います。

2018/1