りぼんの読書ノート

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ワイズ・チルドレン(アンジェラ・カーター)

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本書の語り手は75歳の女性で、双子の姉のドーラ。妹のノーラとともに、歌とダンスでショービジネス界を生き抜いてきたドーラは、今でも色気を失っておらず、舞台俳優である父親メルキオールの100歳の誕生パーティに何を着ていこうかと悩んでいる所。そんな彼女が父親との複雑な家族関係を振り返ります。

しかしこの家族というのが複雑怪奇。なんと双子が5組も登場するのです。最初の双子は、役者のラナルフとグランマ・エステラの間に生まれたメルキオールとペリグリン。安宿のメイドであったキティに生ませたドーラとノーラを認知することがなかったメルキオールに代わって、生涯独身を通したペリグリンは双子姉妹を育て、彼女たちは長いこと彼が父親だと信じていたのです。

メルキオールが最初に正式に結婚したレディ・アタランタとの間に生まれたのが、ドーラたちの宿敵となる双子姉妹のサスキアとイモジェン。レディ・アタランタは離婚後に実の娘たちとも関係を悪化させ、現在は下半身不随になってホイールチェアと呼ばれながらドーラたちと同居中。

2番目の妻は、お色気たっぷりのハリウッド女優のディーリアでしたが、彼女との間には子供はできませんでした。しかし3番目の妻エステラことレディ・マーガリンの間には、今度は男の双子であるトリストラムとギャレスが誕生。この全員がショービジネス界で生計を立てているのですから、家族の歴史はそのまま、20世紀の演劇・映画・ファッションの歴史なのです。

華やかなハリウッドから場末の劇場まで、激しい浮き沈みを経験しながらも明るく生きてきたドーラとノーラの願いはただひとつ。それは不実なメルキオールから実の親子と認められることだったのですが、父親の100歳の誕生日に、その願いは叶うのでしょうか。しかし長い間消息不明だったペリグリンが登場して、怪しい流れになっていくのです。

タイトルは「賢い子どもは父親をよく知っている」という格言からきています。しかし本書における父親とはメルキオールなのか、ペリグリンなのか。そして5組めの双子とは、誰と誰の間に生まれた子供なのか。本書の楽しさを味わうためには、しばしの間、モラル感など忘れておいたほうが良さそうです。

2018/5