『春に散る(沢木耕太郎)』に続いて、2作連続でボクシング小説を読みました。こちらの主人公は2016年6月に亡くなった、モハメド・アリ。実際にアリが闘った世界戦のうちで、記念碑となった4試合に焦点をあてて描かれた作品です。
第1章は、1964年の対ソニー・リストン戦。当時史上最強のハードパンチャーと言われていた32歳のリストンに挑んだ22歳のアリは、圧倒的に不利な予想を覆します。「蝶のように舞い、蜂のように刺して」、7回TKO勝ち。この試合後に正式に本名をカシアス・クレイからモハメド・アリへと改名。
第2章は、1971年のジョー・フレージャー戦。ベトナム戦争への徴兵拒否によってタイトルを剥奪され、3年以上のブランク後に再起を懸けた一戦では、フレージャーの機関車のような突進をかわし続けたものの、15回判定負け。29歳のアリは、既に全盛期のスピードを失っていました。
第3章は、1974年のジョージ・フォアマン戦。アリを倒したフレージャーを2回でKOした史上最高のハードパンチャーに対して、8回KO勝ちを収めた「キンシャサの奇跡」です。ロープ際で防戦一方になりながらフォアマンの体力を消耗させ、最後の一発で逆転した劇的な勝利でした。
そして第4章は、1980年のラリー・ホームズ戦。一度引退した後のカムバック戦で、かつてのスパーリング・パートナーが持つ王座に挑戦したものの、思うように動かない自分の肉体に違和感を覚えたまま、滅多打ちにされて11回TKO負け。これがアリの最後の世界戦になりました。
もともと著者の作品の登場人物は饒舌なのですが、本書では全318ページの大半がアリの独白です。試合前にはビッグマウスをたたき、試合中も相手を罵って挑発し続けたアリは、著者の作風にぴったりですね。客観的な試合展開の説明など省き、パンチの応酬、ダメージの有無、その時々の心情などを主観的に描いた闘いは、アリのボクシングスタイルのようにリズミカル。
2018/1