りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

春に散る(沢木耕太郎)

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『敗れざる者たち』一瞬の夏『カシアス』の「ボクシング三部作」をはじめとするスポーツ・ノンフィクションの大家が描いたボクシング小説です。著者の作風からしてシリアスな作品を予想していたのですが、いい意味で裏切られました。本書は痛快エンターテインメントだったのです。

チャンプとなる夢が破れてアメリカに住みつき、心臓発作を起こしたことを機に40年ぶりに帰国した広岡は、かつて所属していたジムで「四天王」と呼ばれた仲間を訪ね歩きます。しかし彼らは皆、「余生」を上手に生きてはいなかったのです。

傷害事件を起こして服役中の藤原、ジム経営に失敗して親族からも見捨てられた佐瀬、転落人生を救ってくれた妻に先立たれた星。広岡はかつての仲間を集めて共同生活を始めるのですが、その時点で頭にあったのは、単なる「元ボクサーたちの老人ホーム構想」でしかありませんでした。しかし、才能に恵まれながら目標を失っていた若いボクサー・翔吾と出会ったことで、全てが変わり始めます。そして4人に鍛えられた翔吾は、世界チャンピオンを目指すのですが・・。

4人の元ボクサーたちの過去が語られたり、『明日のジョー』の白木葉子を思わせる「お嬢さん」が離婚してジムを継いでいたり、元ボクサーたちを世話するワケありの不動産屋の女性事務員が翔吾と結ばれたりと、エンタメ色が濃い展開もあり、読後感は爽やかです。

しかし根底にあるのは「チャンピオンになれなかった者には何が不足していたのか」という問いであり、「自由を求めて闘った先には何があるのか」という重いテーマです。さまざまな人生を描いてきた著者の集大成である小説であるなら、当然のことでしょう。

2018/1