りぼんの読書ノート

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遥かなるセントラルパーク(トム・マクナブ)

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ロサンゼルスからニューヨークまで5000km。3か月かけてアメリカ大陸を横断するというウルトラマラソンと聞いて、単調なランニングを思い浮かべてはいけません。本書は、波瀾万丈でドラマチックな物語なのです。

本書の主人公は、なんといっても「マラソン興行そのもの」でしょう。山師的な興行師フラナガンが、スポンサー企業や都市を探してきて成立させた企画は、資金難と妨害のために何度も途中消滅しそうになりつつも、生き延びていきます。後にFBIとなった学生への支援や、女性宣教師との交友がフラナガンに奇跡をもたらすのですが、それもすべて、ランナーたちとの信頼関係を作り上げたからこそ。

もちろん、個性的なランナーたちも皆、主人公です。50歳を過ぎてもランニングから離れられない、元オリンピック選手のドク・コール。組合活動で失業したのちストリートボクサーをしていたモーガンスコットランドからやってきたスプリンターのヒュー。仲間たちと入賞を賭けたイギリス貴族のサーレイ。賞金に村の存続がかかっている、メキシコインディオマルチネス。ガッツを秘めた美しきダンサーのケイト・・。彼らはライバルであると同時に、一緒に走り続ける同志なのです。

そして1930年代という時代そのものも、本書の主人公であるといえるでしょう。大恐慌後のアメリカ各都市の世相や、労働争議、賭けボクシング、ピクニック・ゲーム、国の威信をかけて参加したナチス代表、建設中のフーバー・ダム。シカゴでは、アル・カポネも登場します。

1928年に実際に行われたアメリカ大陸横断マラソンに想を得て書かれた作品ですが、スポーツ小説の枠を超えて、発表後40年以上も読み継がれています。最終地点となるセントラルパークで読者を待っているのは、深い感動です。

2015/5