りぼんの読書ノート

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棋士という人生(大崎善生/編)

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専業作家となるまで日本将棋連盟に勤めて将棋棋士と深く関係し、高橋和女流3段を妻に持つ著者による「将棋アンソロジー」です。「吹けば飛ぶような将棋の駒」に人生を賭けた往年の大棋士たちの横顔から、羽生ら新時代の若手棋士たちによる世代交代、さらにはコンピュータ将棋の台頭を予感させる文章群からは、「棋士という人生」が浮かび上がってくるようです。

当時新鋭だった中原誠を一蹴して「将棋が弱くなるクスリはないか」とうそぶいた升田幸三、生涯現役を貫きA級在籍のまま病死した大山康治、神童・加藤一二三や弟弟子・中原誠に敗れて将棋への情熱を失った芹澤博文。昭和時代のエピソードは、大山・中原が長く名人に君臨し、芹澤が不遇の天才に終わった秘密を解き明かしているようです。

若手棋士奨励会員の過酷な現実や生々しい苦悩が紹介された後には、それらと無縁に頂点まで上り詰めた谷川浩二と、彼に続いた羽生善治世代の佐藤康光丸山忠久藤井猛森内俊之郷田真隆ら若きタイトルホルダーたちが登場。彼らも今では40代後半の中堅となり、20代の棋士たちから挑戦を受ける身になっています。

将棋ジャーナリストはもちろん、坂口安吾、沢木幸太郎、村上春樹らの作家たちが将棋に関する文章を綴ったエッセイなども紹介されていますが、棋士本人が綴った文章のほうが圧倒的に面白い。著者の『聖の青春』の主人公である夭折した村山聖のエピソードは、あえて本書には登場させていないのでしょうが、文字通り勝負に人生を賭けたエネルギーが溢れ出てくるようなのです。

余談ですが、本書で弱小棋士として登場している桐谷広人5段(1980年代当時)が「投資家」として、神武以来の神童であった加藤一二三元名人が「ひふみん」としてそれぞれブレークしていることには、微笑ましさを感じます。

2018/1