りぼんの読書ノート

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オン・ザ・ロード(J・ケルアック)

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1960年代に花開いたヒッピー文化の先駆けとして生まれていたのが、主に1950年代に出版されたビートニク文学です。本書はその時代を代表して、ビートジェネレーションにとってのバイブルとも言われた作品です。

 

「ここではないどこかへ行く」との強い想いに駆られて、アメリカ大陸の各地に散らばる友人たちを訪ねて何度も大陸を放浪した青年たちの旅は、半世紀前のホーボーや、その後のバックパッカー文化とは異なっているようです。それは生活に追われたものでも、個人の内面を見つめ直すための旅でもありません。あちこちで恋人や愛人を作り、友人たちとのパーティをはしごし、狂ったように音楽や麻薬を楽しむ至福の瞬間を求め歩く様子は、1920年代のロストジェネレーションとの共通点もあるようですが、より享楽的で刹那的。移動手段は問題ではなく、誰かが車を持っていればそれに乗り合い、お金があればバスや鉄道を利用し、お金がなければヒッチハイク。時には犯罪まがいなことも行われました。

 

本書の主人公サル・パラダイスのモデルは著者自身ですが、事実上の主役を務めているのがディーン・モリアーテイ。41歳で亡くなったニール・キャサディなる人物がモデルとのことですが、旅の後には叔母の元に帰って執筆に戻るサルと異なり、より奔放で過激で破滅的。彼自身は何の著作も残していませんが、彼の人間的魅力と行動力は、著者はもちろんのこと、本書にも変名で登場しているバロウズギンズバーグなど多くの作家に影響を与えたようです。

 

しかしこのような青春時代も終わりを告げる時が来るのです。路上の旅も繰り返すごとに短くなり、メキシコから戻った後の第5部では、エピローグのような再会と別離が記されることになります。ビートニク時代を、人生を取り戻すためのステップとした者も、そこで燃え尽きてしまった者もいたということなのでしょう。

 

2020/12