りぼんの読書ノート

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現代詩人探偵(紅玉いづき)

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ミミズクと夜の王ブランコ乗りのサン=テグジュペリなど、ファンタジー系の作品が多い著者によるミステリです。とはいえ、著者自身が「あとがき」で述べているように、本書は本格的なミステリではありません。本書のテーマは「詩人たちの心の闇」なのでしょう。

とある地方都市でオフ会に集まり、10年後の再会を約束して別れた「現代詩人卵の会」の9人のメンバー。しかし10年後に集まったのは、わずか5人。あとの4名は自殺していたのです。最年少で、当時書いた詩のタイトルから「探偵くん」と呼ばれている主人公は、彼らの死の真相を探り始めようとするのですが・・。
 
著者は、「今まで出会った人々の中で、最も生きづらさを感じたのが現代詩人たちでした」と述べています。だからなのでしょう。主人公の創作である「探偵」という詩をはじめ、亡くなったメンバーが書いたとされる詩は、作風こそ違え、どれも「死」の臭いが濃厚なのです。現代社会で「詩を書いて生きていく」ことは「死を意識しながら生きていく」ことなのでしょうか。

そこまで短絡的に思い詰める必要はないものの、主人公には「探偵役を務める動機」があったのです。そして彼の動機こそが、本書の中でもっともミステリらしい部分でした。普通は著者の「創作の悩み」は明かされるべきものではないのですが、本書の場合は例外かもしれません。本書のために、作風の異なる詩を6編も生み出した著者の「創作の悩み」は、主人公が感じている圧倒的な淋しさと重なってくるのです。著者の作風から期待していたものとは異なりましたが、いい作品でした。

2017/7