りぼんの読書ノート

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10:04(ベン・ラーナー)

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タイトルの「10:04」とは、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で主人公が未来に戻る時刻のこと。時計塔に雷が落ちるシーンで、時計塔の針は10:04を指していたそうです。本書は、さまざまな人生の岐路に立たされた主人公が選択を繰り返すことで、未来が少しずつ変化していくという「揺らぎ」をテーマにした作品なのです。

「複数の未来に自分を投影してみる」という主題で書かれた本書ですが、ストーリー的に大きな起伏があるわけではありません。処女作が好評だったため、まだ書かれていない次作の原稿料を前払いで貰ったこと。その構想を練るためにテキサスの田舎町でレジデンス生活をおくること。著名な詩人たちと交わしたメールを「創作」して小説に取り込もうと思いついたこと。

大動脈に「死に至る解離」の可能性があると診断されたこと。人工授精のために精子が欲しいと親友の女性から言われたこと。全損して保険料を受け取ったためにゼロ評価となっている美術品を見に行ったこと。ニューヨーク直撃が懸念された大型台風の進路がそれたこと。

これらは実際に起こったことなのか。それとも実際には起こらなかったことなのか。「全ては今と変わらない―ただほんの少し違うだけで」という一点を除けば、本書は日本近代文学における「私小説」と本質的に同じものなのかもしれません。本書の中で一番印象的だったのは「過去に思い描かれた未来ほど古びて感じられるものはない」という主人公の言葉でした。本書は著者にとって、古びているのかいないのか。そこは是非とも聞いてみたい点なのですが・・。

2017/7