りぼんの読書ノート

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君たちに明日はない(垣根涼介)

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主人公の村上真介は、リストラ請負会社に勤めるクビ切り面接官。映画「マイレージ・マイライフ」でジョージ・クルーニーが演じたような仕事であり、用意周到かつ冷徹な面接手法でリストラ候補者を希望退職に追い込むのですが、彼の場合は葛藤を抱えているわけではなさそうです。むしろ現代日本における必要悪と、割り切っているような印象です。

確かにリストラ候補者の大半が問題社員であることは、実際に会社に勤めている者としても理解できるのです。パワハラ・セクハラの常習者、過去の成功体験から成長できない脱落者、自己評価のみが高く不満を撒き散らす者、会社方針に反対して業務を阻害する者、職場での人間関係をうまく築けない者・・ただし「異分子」は必要なのであって、その見極めが難しいのも事実です。

もちろん、問題社員を辞めさせるだけではドラマになりません。「異分子」の「選択」を描くことで、小説になるのです。建設会社の「怒り狂う女」芹沢陽子は、むしろ進んで転職。というより、熟女好きな村上と個人的な関係にも至りそう。オタク開発者の「オモチャの男」緒方紀夫は、管理職よりもヒラ研究員のほうが向いていたのでしょう。

主人公の「旧友」で合併後に冷遇されている銀行員の池田昌男は、ヘッジファンドの仕事のほうが力量を発揮できそうです。モーターショーのコンパニオンからの卒業を迫られた「八方ふさがりの女」飯塚日出子には、まだ他の選択肢もあるのかもしれません。そして音楽プロダクションから「去り行くもの」には、その後のSMAP騒動と繋がる要素も感じます。

リストラや転職は会社生活どころか人生における一大イベントなので、そこから人間ドラマが生まれるのは当然のことですね。本書がシリーズ化されたりTVドラマ化されたりするのも理解できますが、主人公自身が抱える物語へと至るかどうかが勝負どころではないかと思います。

2017/7