りぼんの読書ノート

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ザ・サークル(デイヴ・エガーズ)

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近未来を舞台にした「プレ・ディストピア小説」です。北カリフォルニアの巨大企業「サークル」は、情報公開を極限まで推し進めることによって、さまざまなサービスを提供するようになっている、ネット業界の覇者。ここでは、秘密や匿名性や情報削除が「悪の温床」と見なされています。

「サークル」に入社できた24歳の新人メイの会社生活は、ユニークで才能ある同僚や上司に恵まれて、幸先よく始まりました。情報と技術が洪水のように溢れる会社の中で困惑することはあるものの、努力と機転と才能によって頭角を現したメイは、数百万人ものフォロワーを抱えるようになっていきます。やがて、カメラや計測器を全身にまとって「透明化」を果たし、一挙一動が世界に注目されるスター社員となったメイは、「サークルの完全化」を推進していくのですが・・。

誰かの発した情報に「ニコ」とか「ムカ」とか発するだけに時間の大半を使う、コミュニケーションが自己目的化した社会はどうみても異常です。「SNS疲れ」という言葉もだいぶ前から登場していますし、不特定多数からの過剰な善意が一瞬にして恐るべき何者かに変化する「炎上」だって「狩り」だって、日常茶飯に起きている。

そのうえで本書は、次に来るものを予見しているのでしょう。記憶装置の容量と電力消費面でのブレークスルーさえあれば、「SNS版『一九八四』」を作り上げることは達成可能に思えるだけに、本書の怖さは現実的なものに思えます。

2015/5