りぼんの読書ノート

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紙の民(サルバドール・プラセンシア)

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奇妙な小説です。冒頭に登場するのは、紙で人間の臓器や血管を作る、折り紙外科医アントニオにまつわる突拍子もないエピソード。そこに加わるのが、ハリウッド女優のリタ・ヘイワースは「アメリカン・ドリーム」を成し遂げたメキシコ人だったという「偽書」と、メキシコの聖人サントスと人気覆面レスラー「タイガーマスク」の友情物語。

それに続く本題は、妻に去られてロサンゼルス郊外に定着したメキシコ移民のフェデリコ・デ・ラ・フェが、土星に対して戦いを挑む物語なのです。なぜ、悲劇に付きまとわれるのか。なぜ、上空から全てを見られている気がするのか。土星の存在に気付いたフェデリコは、娘のリトル・メルセドとともに若者たちを組織して、自分の存在と心を隠すために、鉛の覆いの下に隠れ潜む生活を開始します。

土星の正体は、著者のサルバドール・プラセンシアでした。登場人物から挑まれた戦争のせいで執筆は進まず、元の恋人のリズには去られ、次の恋人のカメルーンにも逃げられそう。彼はなんとも情けない男なのですが、ただひとつ重要なことは理解しています。それは、「悲劇に続編なんてない」ということ。

かくして、寝小便と、ライムと、カーネーションと、蜂の針と、キカイガメと、ベビー・ノストラダムスと、レタス労働者と、修道士と、泥棒教会と、ジプシー女と、ナポレオンと、紙の民と、創作と、メタフィクションと・・すべてが混然一体となって、喪失と失恋の悲しみに収斂されていくようです。

同時並行を示す3段組みや4段組みや、土星から存在と心を隠した塗りつぶしや、縦書きや横書きの混在など、とんでもなく読むのが面倒なレイアウトが、混乱に拍車をかけるようです。物語が終わった今、紙の民たちは消滅してしまったのか。それとも、土星から自由になったのか。後者であって欲しいとは思うのですが・・。

2015/5