りぼんの読書ノート

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桑港特急(山本一力)

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山本一力さんというと、直木賞受賞作『あかね空』をはじめとして、江戸人情小説の名手との印象しかなかったのですが、故郷の土佐を出発点にした『ジョン・マン』をライフワークとされており、19世紀のアメリカ事情にも通じていらっしゃるようです。本書は、江戸時代後期に小笠原の父島に生まれた若き兄弟・丈二と子温が、アメリカに渡って活躍する冒険小説です。

文政13年(1831年)、清水港から吉原へと売られる4人の娘が乗った船が嵐に逢って、小笠原の父島に漂着。助かった娘たちは、父島に定住を決めた元捕鯨船乗りのアメリカ人と結婚。最年長のみすずは、丈二と子温の2人の息子に恵まれます。やがて成長した2人は、米国捕鯨船フランクリン号の副長を務めている20歳の日本人ジョン・マンと出会い、航海への夢を募らせるのでした。

その頃、ゴールド・ラッシュに沸くアメリカ西海岸では、一獲千金を夢見る人たちが次々と訪れ、さまざまなビジネスが勃興しようとしていました。大陸横断鉄道に商機を見いだして、上海からサンフランシスコに向かう途中で父島に立ち寄ったチャンタオとルーパンは、兄弟の素質を見抜いて、船に同乗させます。やがて彼らの人生は、悪漢に殺害された妻の仇を狙うガンマンのリバティ・ジョーと交差していくのですが・・。

小笠原・アメリカ西海岸・上海の3か所でそれぞれ進んでいた物語が、サンフランシスコで合体してからは、一気の展開。西部劇の世界に入り込むのですが、それ一色に染めきらないのが著者の力量なのでしょう。小笠原での家族の生活が丁寧に書き込まれていた前半部分が、全体を貫く重しとして、ここで効いてくるのです。

「桑港特急(サンフランシスコ・エクスプレス)」とは、金鉱の町オーバーンとサンフランシスコを結ぶ砂金郵送馬車のこと。日・米・漢の三か国語がミックスされた言葉ですが、本書にふさわしいタイトルです。

2015/5