りぼんの読書ノート

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繊細な真実(ジョン・ル・カレ)

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2018年最初のアップは、もはや「スパイ小説の巨匠」などという枠を遥かに超えた著者の23作目にあたる長編です。本書は、近年日本でも施行された「特定秘密保護法」に関するテーマを扱っています。

民間防衛企業との深い関係を噂されている新任の大臣が、ジブラルタルでテロリスト捕獲作成を実行。大臣の代役として現地に赴いていた初老の外務省職員は、作戦が成功したと告げられて帰国。やがて彼は爵位を授けられて退職したものの、その作戦の陰で起きていた惨事が隠蔽されていたことを知ってしまいます。良心に促されて事実を公表しようとするものの、公職守秘法で縛られているため機密情報の漏洩は重罪なのです。

一方で大臣の秘書官であったトビーは、当時から大臣の秘密活動を疑っていました。引退した外交官から連絡を受けたトビーの中で、全ての情報がひとつに結びついていきます。現職外交官でありながら、隠蔽された秘密を暴こうとするトビーの前に立ちふさがるのは、国家と軍事企業。そして彼らは超法規的な措置を取ることすら躊躇しないのです。

同盟的大国や軍事産業に主導された「国家の右傾化」と「特定秘密保護法」が深い関係を持っていることを暴き出した本書は、現代日本でも起こり得る問題を扱っているようです。たとえば日本領土である尖閣諸島で同盟国である米軍が単独行動を起こしたら、「国益」の名のもとにその事実は隠蔽されてしまうのでしょうか。その行動が成功しても、失敗しても・・。

本書の執筆時で82歳であった著者の視点は、新鮮かつ確実なものであり続けているようです。いつ筆を置いてもおかしくない年齢ですが、さらなる新作を期待したいものです。

2018/1