りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ふくわらい(西加奈子)

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不思議なタイトルと不思議な表紙を持つ作品ですが、タイトルの意味は冒頭で、表紙の絵が持つ意味はラストで明かされることになります。

整った顔をパーツに解体してもよいと知った時の衝撃は、それは「おしょうがつ」という言葉が、6つの文字の組み合わせであることを知った時と同じだったという主人公は、25歳の女性、鳴木戸定。破天荒な紀行作家だった父から、マルキ・ド・サドをもじって名づけられた定は、「ふくわらい」を唯一の趣味とし、身なりに無関心で、感情を表さずに人付き合いをこなす書籍編集者になりました。

「一度バラバラに解体し て、自分の信じるものを構築すればいい」というテーマは、後の直木賞受賞作サラバ!と同様ですが、では「自分の信じるもの」とは何なのか。彼女は、自分が担当する変わった作家たちとの交流の中から、自分自身を再発見していくことになるのです。

ゲシュタルト崩壊気味のロートルプロレスラーで、エッセイを書いている守口廃尊。引きこもりで無茶な要求を繰り返す之賀さいこ。無頼派スタイルを貫き通している老作家の水森康人と妻のヨシ。盲目なのに定に「一目惚れ」して猛烈にスキンシップを求めるハーフの武智次郎。美人すぎて悩み多き後輩の小暮しずく。

顔が身体の一部であるように、自我も自分の一部であり、「先っちょだけ」の接点だって他者に自分を理解してもらう第一歩なのですね。そして「自分が自分として産まれてきたこと」、誰にとっても奇跡なのです。全てをまっすぐ受け入れる強さを持ちながら、だからこそ傷だらけになって生きてきた定が、何をどうふっきることになるのでしょう。かなりグロい箇所もありますが、それも含めて本書の魅力です。

2016/8