りぼんの読書ノート

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ジヴェルニーの食卓(原田マハ)

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楽園のカンヴァスアンリ・ルソーへの情熱を「幻の絵画をめぐるミステリ」として書き上げた著者が、マティスドガセザンヌ、モネという巨匠たちの人生の断章を、女性の視点から綴った短編として描き出しました。

「うつくしい墓」
マティスの晩年に家政婦として仕えた老女は、彼の思い出を大切にしながら修道女として生涯をおくったことを、「ル・フィガロ」の記者に語ります。晩年のマティスピカソとの交流が印象的です。ヒューチャーされる作品は、MOMA所蔵の「ダンス」と、マティスが装飾を手掛けた「ドミニコ会修道院ロザリオ礼拝堂」。

「エトワール」
アメリカにドガを紹介した画家のメアリー・カサットが、画商のデュラン・リュエルから、かつての踊り子の行方を尋ねられます。「踊り子」ブロンズ像のモデルとなった少女は、オペラ座のトップ・バレリーナ「エトワール」となる夢を抱いて、ドガの狂気じみた情熱の前に姿態をさらしたのです。

タンギー爺さん」
貧しい画家たちに無料で絵具を提供し続けた画材商タンギー。彼が画家たちに抱いていた夢を語った言葉が、タンギーの娘がセザンヌに出した手紙の中で綴られます。ヒューチャーされる作品は「リンゴひとつでパリを征服する」と語ったセザンヌの「リンゴとオレンジ」ですが、どうしてもゴッホの「タンギー爺さん」のイメージのほうが浮かんできてしまいます。

「ジヴェルニーの食卓」
晩年のモネと同居していた義理の娘ブランシェが、オランジェリー美術館に飾られることとなった「睡蓮」の大作を完成させるまでの画家の苦悩を語ります。白内障を患った画家は、政治家クレマンソーの友情のために大作を描き切ったのでした。ジヴェルニーの黄色い食卓で提供されるブランシュの料理は美味しそうですが、それはモネの後妻となった彼女の母アリスのレシピだったのですね。

絵画鑑賞にはエピソードは不要なのでしょうが、優れた物語が絵画を思い出させてくれることも事実です。

2016/8