りぼんの読書ノート

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暗幕のゲルニカ(原田マハ)

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「泣き叫ぶ女、死んだ子供、いななく馬、力尽きて倒れる兵士、振り向いて世界が崩れる瞬間を見てしまった牝牛・・」。MOMAでピカソを専門とするキュレーターを務める八神瑤子は、10歳の時に見た「ゲルニカ」に捉えられてしまったのです。9.11で最愛の夫を亡くした瑤子は、対イラク開戦決議を公表する際に、国連本部ロビーに架かる「ゲルニカ」のタペストリーが暗幕で覆われていたことを知って、愕然とします。

1937年。ゲルニカ空爆をパリで知ったピカソは、苦悩の末に巨大な作品を描きあげます。ピカソに寄り添って、大作の創作過程を写真に撮り続けたのは、ピカソの愛人で「泣く女」など多くの名画のモデルともなった写真家のドラ・マールでした。第二次世界大戦の開戦前夜、「ゲルニカ」をアメリカに亡命させようとするピカソとドラ・マールの物語と、イラク戦争の最中であるからこそ、「ゲルニカ」をアメリカで展示させようとする瑤子の物語が、交互に描かれていきます。


時を隔ててドラ・マールと瑤子を助けるピカソ愛好家のスペイン貴族の存在や、名画を奪おうとするバスク解放戦線の登場。さらに2人の女性の運命が交差する瞬間などの展開には、リアリティーの点でマイナスとの評価もあるようです。しかし「ゲルニカ」が人類共有の資産であることを、強く意識させる効果もあるのです。楽園のカンヴァスで「助演」させたピカソへの愛を込め、2016年に直木賞候補となった著者渾身の作品です。

2018/4