りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

毒見師イレーナ(マリア・V・スナイダー)

イメージ 1

中世的な架空の世界を舞台とするファンタジーですが、主人公の少女が魅力的なだけでなく、矛盾に満ちた世界観も良いのです。

腐敗した王政を倒した革命軍事政権国家イクシアは、個人の権利を厳しく制限する法治国家である一方で、男女同権や法の下の平等は実現されている一方で、隣国のシティアは個人の自由や文化が尊ばれているものの、他人の心を操る魔術師がエリートとして君臨する社会。いずれ主人公は、自分の生き方の選択を迫られていくのでしょう。

しかし清廉な独裁者に率いられる革命国家イクシアにも腐敗した勢力はいるのです。第5軍管区の将軍ブラゼルは禁断の魔術を用いて、権力奪取を目論んでいる模様。そのブラゼルにさらわれた孤児のイレーナは、残虐に扱われる日々に耐えかねて反撃し、ブラゼルの息子を殺害した罪によって服役。死刑執行の日に司令官側近のヴァレクから、最高司令官アンブローズの毒見役に就くかどうかの選択を迫られます。

平均余命の短い職務であり、毎日与えられる解毒剤を飲まないと苦悶死するという目に見えない鎖に縛り付けられてしまいますが、最高司令官と側近の間近に侍ることは、国家の機密に触れることでもあるのです。毎日を懸命に生き抜いているイレーナは、やがて国家と司令官に迫る陰謀に巻き込まれてしまうのですが・・。

イレーナの「普通感」がいいですね。実は彼女は、決して普通の少女ではなかったのですが、彼女の前向きな懸命さに共感を抱く読者も多いのではないかと思います。まだ謎は解けていませんが、「3部作」とのことですので次巻以降に期待しましょう。

2018/4