りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

活動寫眞の女(浅田次郎)

イメージ 1

1997年に出版された、比較的初期の作品です。昭和44年、京都の大学に入ったものの、排他的な京都の町に馴染めないでいた薫が知り合ったのは、京都の名家に生まれ育った同級生の清家忠昭。2人には、大の日本映画ファンという共通点があったのです。

古き良き映画の都・太秦の撮影所でアルバイトをすることになった2人は、撮影現場で絶世の美女と出会います。エキストラをしながら女優を目指しているというその女性と、激しい恋に落ちた清家。しかし彼女は30年も前に死んだ大部屋女優・伏見夕霞の幽霊でした・・。

日本映画界黎明期の巨匠たちに見込まれたものの、不運が重なって不遇のまま、恋仲となった山中貞夫が戦死した日に命を絶った女優。自殺。日本映画の父・マキノ省三に見いだされ、22歳の若さで日本映画界の巨匠と呼ばれた山中貞雄と恋仲になったものの、主役を凌ぎかねない美しさのゆえにセリフも与えられないでいた不幸な女優。彼女の霊魂は何を求めていたのでしょう。そして清家は、彼女とどうするつもりだったのでしょう。

まるで、伏見夕霞という女優が本当に存在したかのように思わされてしまいます。日本映画の黄昏と、活動屋や大部屋俳優・女優の悲哀を描き切った作品です。幽霊となった夕霞が、たった一度だけカメラの前で演じた「ラストカット」は、まさに絶唱。かつて森口瑤子さん主演でドラマ化されたとのことです。

2016/10