りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

かきあげ家族(中島たい子)

f:id:wakiabc:20210312151744j:plain

B級コメディ映画ばかり撮り続けてきた老映画監督の中井戸八郎は、最近では仕事のオファーにも見放された状態。元女優の妻がチョイ役で現役復帰を試みているのはともかく、長男は家族に無断で仕事を辞め、次男はひきこもったままで、性転換して女性になった三男は妻と離婚協議中。図らずも久々に家族が集まったものの、皆ワケアリでぐちゃぐちゃの「かきあげ」状態。

 

そんな時に事件が発生。なぜか八郎が、世界的巨匠の故黒川監督から遺された絶筆脚本がネットで売りに出ているというのです。犯人は家族の中にいるのでしょうか。しかしその脚本は、父と息子の微妙な関係を描いたものなのに、肝心の息子が一度も登場しないという不思議な物語なのです。そんな折、やはり元女優で女手一つで八郎を育てた93歳の母が「八郎の父親は黒沢だ」と、今更ながらの爆弾発言。八郎はようやく、一番大切な人たちと正面から向き合おうとするのですが・・。

 

家族総出で一大プロジェクトに取り掛かるラストまで、一気に読んでしまいました。デビュー作の『漢方小説』以来、等身大の女性を描いてきた著者ですが、本書は新境地なのかもしれませせん。本人は否定しているようですが。美大の映像コースを卒業しているだけあって、作品に登場する映画評がどれも的確で、よく観察されていることにも感心しました。それにしても親子関係をテーマとしてヒットした映画は多いのですね。

 

2021/4