りぼんの読書ノート

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ドッグマザー(古川日出男)

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明治天皇の記憶を持っていたという養父の遺骨を持って、老犬とともに京都にたどり着いた青年は、伏見で出会った女性の導きで地下世界へと入っていきます。やがて彼は、前世を売る謎めいた教団の女院主と関係し、彼女の後継者となるべき姉弟たちと出会うことになります。そして青年は、京都で「聖家族」を作ろうと決意するのです。

いったいなぜ「京都」で、「教団」で、「聖家族」で、タイトルが「ドッグマザー」なのか。この小説に仕掛けられた謎は、最後の1行になるまで解き明かせません。

著者は本書に関して、「主人公が京都という日本の文化的な中心地に体ごと入っていくことで、日本という歴史的な存在を本質で理解できるんじゃないか」と語っています。そして「日本がどのような国家か規定しなくていい逃げ道として現在の天皇家がいるんじゃないか」と続けています。そこに、ミックス種であった老犬に伝わる「血統」の問題が結びついてくるのですね。本書が大きく展開する第3章が、震災後に書かれたことを思うと、著者は現在進行形の「未来」を作ろうとしているのかもしれません。

2019/6