りぼんの読書ノート

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ピカソになりきった男(ギィ・リブ)

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ピカソ、ダリ、シャガールマティスルノワール・・。30年間に渡って贋作を作り出してきた人物が、実名で著わした半生記です。彼の贋作とは単なる模写ではなく、巨匠の「未発見の新作」を生み出すこと。そのためには画家本人になりきって描くという神業が求められるとともに、贋作を真筆に紛れ込ましていくビジネスモデルが必要なのです。 

 

ロワールの片田舎で娼館を経営する父親と占い師の母親のもとに生まれ、絵筆よりもピストルを握ったほうが普通という環境で育ったものの、彼には天賦の才がありました。贋作ビジネスに取り込まれながらも、彼は制作を楽しんでいたのです。もちろん彼も巨万の富のおこぼれに預かり、贅沢三昧の30年を送った末に逮捕されるに至った訳です。 

 

本書の中で著者は、贋作ビジネスの仕組みについても詳しく語っています。画商も鑑定士も購入者も「贋作を真筆とみなすほうが特になる」というアート市場の在り方が、贋作ビジネスを成り立たせているのですね。著者のケースなど、氷山の一角なのでしょう。 

 

さらに著者は贋作ビジネスのもう一つの要因として「ブランド至上主義の横行」を挙げています。作品自体の芸術性そのものより、画家の名前自体に莫大な価値がつくようになってしまった訳です。そもそも模写とは伝統的な学習手段であり、ピカソなどは「巨匠をうまく模倣できないからオリジナルなものを作る」とさえ言ったことがあるくらいなのですが。 

 

逮捕されて執行猶予付きの刑を受けた後に映画界で再起した著者は、オリジナル作品を制作を続けているとのことですが、贋作とは比較にならないほどの価格しかつかないようです。やはりブランド至上主義の病の根は深そうです。先日もレオナルド・ダ・ヴィンチの新発見の作品が500億円を超える価格で落札されたとのTV番組を見たばかりです。 

 

2019/12