りぼんの読書ノート

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異邦人(原田マハ)

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「異邦人」とは、京都以外の土地で生まれて京都にやってきた人を指す「入り人」であり、「いりびと」と読ませています。「葵、屏風祭、宵山、巡行、川床、送り火、紅葉・・」と連なるタイトルからも歴然のように、本書は京都の魅力に取りつかれた女性を巡る物語。

 

主人公の菜穂は、一代で財をなして美術品を蒐集した祖父が設立した個人美術館の副館長で、美術に関しては父母をしのぐ鑑識眼を有しています。つきあいの長いたかむら画廊の青年専務・一樹と結婚して出産を控えてている菜穂が京都に長逗留することになったのは、震災後の東京を逃れたため。そんな菜穂に対して普通なら「入り人」に閉ざされている京都の扉が開いたのは、祖父も指示したという老書道家の屋敷に間借りしたからなのでしょう。彼女は京都の名だたる画家や文化人に近づけるようになっていきます。

 

しかし彼女に「刺さった」のは、無名の若い女性画家・白根樹が描いた一枚の小品だったのです。京都日本画壇の巨匠の弟子ながらなぜか冷遇されている樹と、菜穂は急速に接近していきます。そして菜穂が知った、樹の出生の秘密とは、驚くべきものでした。京都の四季の移ろいを背景として展開される物語は、画廊の経営危機、菜穂と一樹の夫婦関係、菜穂と母親・克子の母娘関係などを巻き込んで、どのように着地していくのでしょうか。

 

著者は本書で「美のためなら夫をも蹴散らしていく芸術至上主義の圧倒的に強い女性を描きたかった」そうです。あえて主人公を妊婦にしたのは、彼女の美に対する執着を、おなかのなかの子どもの成長とリンクさせたかったからなのでしょう。今年の冬にら高畑充希さんの主演でTVドラマ化されるとのことです。

 

2021/10