りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

火星に住むつもりかい?(伊坂幸太郎)

イメージ 1

容疑者を拷問にかけて自白を強要し、ギロチンで公開処刑するという「平和警察制度」が施行されている未来社会。住民の相互監視や、密告や、冤罪がまかり通る「現代の魔女狩り」であることは周知であるものの、この制度によって犯罪件数が激減していることも事実というのです。

今年の安全地区に選ばれた仙台でも、危険人物とみなされた人物の処刑が行われました。さらに密告された容疑者が冤罪で次々と連行される中、全身黒ずくめで謎の武器を操る「正義の味方」が登場。メンツを潰された平和警察は、彼を罠にかけて処刑しようと策を練り、ついには彼を絶体絶命の窮地に追い込むのですが・・。

そもそもたったひとりの「正義の味方」が、全ての冤罪者を救えるわけではないのです。彼の祖父も父親も、あまりにも良心的な人間であったために、命を落としていたのです。では彼は、どんな基準で人助けをしているのでしょう。そしてそもそも、彼を立ち上がらせた動機は何だったのでしょう。

ネタバレは避けますが、ダークな世界を描きながらも、意外なラストに救いを感じる作品でした。そして著者の持ち味である巧みな伏線と、それが全て綺麗に嵌って行く展開は、やはり見事です。伏線を回収しないで放置する「純文学」を読んだ後なので、特にそう感じたのかもしれません。何よりも、個人レベルから国家レベルに至る暴力を憎みながら、正義のあり方に悩み続ける著者の姿勢は、やはり心地よいのです。

2017/11