りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ダ・フォース 下(ドン・ウィンズロウ

f:id:wakiabc:20210208084001j:plain

マンハッタンに君臨する警官たちのリーダー、マローンは、汚職警官の捜査を極秘裏に進めるFBIによって追い詰められていきます。彼自身が最も忌み嫌っていた内部通報者「ネズミ」となって、最も信頼してきた仲間たちを「売る」ことを強制されていくのです。そんな中でマローンに売られた同僚警官が拳銃自殺。警察内部に衝撃と疑心暗鬼が広がっていく中で、黒人容疑者を射殺した警官が大陪審で無罪となった事をきっかけとして人種暴動が発生。新旧のギャングたちの権力抗争も激化していく中で、孤立無援になったマローンは重大な決断を下すに至ります。

 

本書は2017年に出版された作品ですが、この時すでに「Black Lives Matter」という言葉はあったのですね。2020年の大統領選挙の直前に、前大統領は警官の暴行を容認するような発言をして顰蹙を買いましたが、悪徳警官を主人公として人種暴動を物語のピークにもってきた著者の主張は、マローンの行動によって明確にされます。もちろん、本書を捧げる相手として殉職警官のリストが巻頭に列挙されていることは、「黒人vs警官」という単純な構図を意図したものではありません。

 

本書は「暴力と麻薬の蔓延を文字どおり体を張って防いでいる現場の刑事」に対して、著者が抱いている深い尊敬の念をテーマとする作品なのでしょう。だからマローンは、老女を襲った強盗犯を捕まえたことを喜び、黒人の子供たちを殺害した麻薬組織のボスを憎み、黒人の容疑者を射殺した警官に対して強い怒りを覚えるのです。本書のすべては、マローンが最後の瞬間に下した決断に至る伏線と言ってもいいかもしれません。その決断は限りなく重く、尊いものなのですから。すべての問題は銃社会が生み出しているのかもしれませんが。

 

この著者の作品にハズレはありませんね。さあ次は、『犬の力』と『ザ・カルテル』の続編である大作『ザ・ボーダー』に取り掛かりましょう。メキシコの麻薬カルテルとDEA捜査官アート・ケラーの40年を超える長い戦いを描いた3部作を締めくくる作品です。

 

2021/3