りぼんの読書ノート

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越境者(C・J・ボックス)

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ワイオミングの心優しい猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの第14弾。このシリーズの中心テーマが自然保護であることは間違いないのですが、内容的にはミステリとアクションの間くらいでしょうか。

 

前作『発火点』で連邦政府の不合理な要請を拒んだジョーは、長年勤めた猟区管理官を辞める決意をしたのですが、彼を重用している知事の意向で現場復帰を果たしています。新たな特別任務として州北東部の寂れた郡で広大な地所を買い占めて地域に君臨している大富豪テンプルトンの調査を命じられました。彼には正義の味方を気取って悪評高い人物の暗殺を請け負っているという噂が立っていたのです。しかもジョーの親友で消息を絶っているネイトらしき人物も関わっているようなのです。ジョーはFBI支局長クーンの支援を得て現地に赴くのですが・・。

 

ワイオミング州で繫栄しているのは、イエローストーンやティトンという大観光地を有する北西部くらいでしょうか。以前このシリーズでも触れられたシェールガス産出地もあるのですが、町の繁栄に繋がるかどうかはエネルギー政策と環境政策のバランス次第なのでしょう。観光もなく交通ルートからも外れた地域が衰退し、悪徳の町と化していった経緯には憐れみすら感じます。もっとも大半の衰退地域は悪徳からも見放されているのが現状なのでしょう。

 

このシリーズでは時代背景も登場人物たちも、時を重ねていっています。第1作『沈黙の森』で7歳だった長女シェリダンは大学生となっていますが、そこで目に留めた不審な男子生徒が起こした事件に巻き込まれてしまいます。亡くなった犯罪者の娘でジョーが養女に迎えたエイプリルは高校生となり、本書のラストで失踪してしまいます。次の巻に繋がる伏線なのかもしれません。ちなみに本書はアメリカでは2014年に上梓された作品であり、現在では既に第21作まで発行されているとのこと。本書に描かれていたのはトランプ以前のアメリカだったのですね。既にさまざまな分断の兆候が現れているのですが。

 

2021/12