りぼんの読書ノート

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ソロモンの偽証 第3部(宮部みゆき)

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いよいよ裁判が始まります。中学生による擬似法廷にすぎないのですが、自分たちの手で悪意に満ちた噂の真相を暴こうという真摯なものであり、それぞれの登場人物たちがこの裁判に賭けているものの大きさは、これまでの展開で明快になっています。

実際の進行も期待を裏切らない内容です。事件直後の学校と警察の動きを証言させて徹底した捜査が行われなかったことを確認し、当時の津崎校長らの善意の行動が決して良い結果を生んだわけではなかったことを明らかにしていきます。もちろん、密告状を捨てたという森内教諭の濡れ衣は晴らされ、予断に満ちた茂木記者の報道が正確さを欠いていたことも。

大出被告とつるんでいた不良仲間の井口や橋口も、亡くなった柏木卓也の父も兄も、そして三宅樹里までもが密告状を書いた本人であることを明らかにして法廷に登場し、それぞれの思いを述べるのですが、被告のアリバイを証明したのは意外な人物でした。

しかし、本書のクライマックスはここからなのです。「この法廷は何かおかしい」と感じていた検事役の藤野涼子が最後に弁護人を召還したときに、法廷の枠組みは崩れ去り、事件の真相が明らかになっていくのです。

本書は純然たるミステリではありません。そこに至る伏線はあちこちに張り巡らせてあり、読者には誰が事件の鍵を握っているのかは予見できてしまうのですが、「何故」という部分が解かれたときに降りてくるものは、深い感動です。被告人の大出の悪行も、偽の告発状を出した三宅の悪意も、真実に最も近いところに居た人物の自責の念も、全てが昇華されていくようなエンディングは、もう宮部さんにしか書けないものでしょう。

今年読んだ日本の小説では、疑問の余地なくNo.1の作品でした。

2012/12