りぼんの読書ノート

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我らの罪を許したまえ(ロマン・サルドゥ)

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13世紀の南フランスで起きた奇妙な事件の顛末を描いた作品です。この地域が、アルビジョア派十字軍で殲滅された異端カタリ派の拠点であったことが、ひとつの伏線になっています。

1284年冬、南仏の不毛な司教区でアカン司教が何者かに惨殺される事件が発生。シュケ助任司祭は、謎に満ちた司教の過去を知るためにパリへと出発。同じころ、新任司祭のアンノ・ギは、司教区のさらに奥地にあると噂される呪われた村へと布教に赴きます。一方、ローマ教皇庁では不祥事を起こした息子を救うため、父親である高名な騎士アンゲランが教皇庁内の陰謀に巻き込まれていきます。これらの物語は、いったいどこに収斂していくのでしょう。

隔絶の地に広めた独自の宗教というと、映画「地獄の黙示録」を彷彿とさせます。ただし、本書の黒幕の目的は、自身が教祖として崇められることではありませんでした。教皇派と皇帝派の争い、正統と異端の争い、科学の発展に対する教会の対応という状況の中で、恐ろしい実験が行われていたようなのです。

多くの登場人物が悲惨な結末を迎える物語ですが、矛盾に満ちた中世という時代の雰囲気はよく描かれているのでしょう。本書は、この事件の真相を明らかにするために1290年に開かれた宗教裁判記録を、現代人が読み解くとの構成になっていますが、そこまで凝る必要はなかったかもしれません。宗教裁判自体が、むしろ事件を隠蔽する方向で記されたのでしょうから。表紙のボッスの怪奇な絵が、いい雰囲気を出しています。

2015/8