りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ペルーの異端審問(フェルナンド・イワサキ)

イメージ 1

タイトルを見る限りでは、「本国スペインよりも苛烈であったという南米ペルーの異端審問の実態を考証するノンフィクション」と思えてしまいます。実際そうなのですが、本書を貫いているのはユーモア精神なのです。

リマ生まれの作家・歴史学者である著者が、実際の裁判記録からピックアップした物語群は、人間の愚かさと欲望の醜さを笑い飛ばします。それは、バルガス・リョサが「序言」で述べているように、「人間性に対する鋭い洞察とみごとな筆致で、凄惨な歴史を極上の文学作品に精錬した」からなのでしょう。

好色な聴罪司祭、悪魔に憑かれた修道女、男色の司教、淫らな女性信者たち・・ある者は神の名のもとに、またある者は悪魔の名を借りて、倒錯した趣味を満たしているケースが続きます。はじめのうちは、失笑、冷笑、爆笑と、ともかくも笑いが生まれるのですが、次第に笑ってばかりもいられない思いにさせられてきます。

これらは全て、征服者が持ち込んだキリスト教の立場から記録された物語なんですね。実際の事件の背景には南米固有の文化や、西欧人の差別意識があったのではないかと思えてくるのです。それもまた著者の計算なのでしょうか。ついでながら、内容はかなりエロいので、そのつもりで。

2016/11