りぼんの読書ノート

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大正箱娘(紅玉いづき)

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時は大正、ロマンの時代。しかし「青鞜運動」などは帝都だけのできごと。地方の女性は、まだまだ古い因習に閉じ込められているのです。女性であることを隠して新聞社で働く新米記者の英田紺と、どんな箱も開けることができるという「箱娘」こと回向院うららのコンビが、不思議な事件に挑む連作短編集です。

「箱娘」
「刀は男に触れさせるな、箱は女に触れさせるな」との言い伝えが残る地方の旧家では、蔵から出た刀で割腹自殺した夫の横に、箱が置かれていたのです。一家を束ねる大奥様と、美人ながら幸薄そうな未亡人から、箱の処理を頼まれた紺は、上司から「箱娘」を紹介されます。箱を一目見たうららは、呪いなどないと言い切るものの、開けることをためらうのですが・・。

「今際女優」
銀座に出来た芝居小屋のこけら落としの公演のためにタッグを組んだのは、死の演技が得意な女優と気鋭の脚本家。しかし、脚本家は自殺して、最高傑作となるべき脚本の最終稿が行方不明に。その作品は、やはり女優の死で終わるのでしょうか。芝居小屋も一種の「ハコ」なのですね。

「放蕩子爵」
銀座の芝居から心中がブームに。しかし、姉の婚約者に一方的に手紙を送りつけて自殺した妹の「文通心中」となると、あまりにも謎めいています。一方で、予告して情報を盗み出し悪事を暴き立てるという、カシオペイアなる怪人が登場。彼が狙ったのは、姉妹の父親が起こした不正事件でした。姉の婚約者を怪しいと睨んだ紺は、手紙が入った文箱を狙うのですが・・。

「悪食警部」
呪いの箱の件で関わった未亡人から手紙を受け取った紺が訪問してみると、再婚して妊娠中という未亡人が、蔵で腹を刺されてしまいます。第一発見者ながら犯人と疑われた紺を救ったのは、急遽かけつけたうららでした。やはり未亡人は、他人には語れない事情を抱えていたのです。

大正時代を舞台にして「因習という箱に囚われている女性の解放」をテーマに据えたミステリとは、いかにも著者らしい作品です。記者の英田紺が男装の記者となった理由は語られたものの、箱娘の正体は全く謎のまま。この時代の者でも、この世の者でもなさそうな雰囲気すら漂っています。おそらく続編があるのでしょう。

2016/11