りぼんの読書ノート

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ブラックアウト(マルク・エルスベルグ)

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ヨーロッパ全域を襲った大停電は、何によってもたらされ、どのような事態を引き起こしていくのか。かなり衝撃的なパニック小説です。ただし始めに言ってしまうと、犯人グループ像は最後まで明確ではないので、サスペンスを期待しないほうが良いかも知れません。

大停電の始まりはイタリアとスウェーデンでした。この2国では、他の欧州諸国に先駆けてスマートメーターが普及されていたのです。それを狙ったウィルスが電力消費を激減させたことで、電力供給もストップしてしまいます。電力というものは貯蔵できないので、需給バランスは自動的に調整されてしまうのです。そして欧州全域に広がるに至った電力ネットワークが、国家を超えた連鎖反応を起こしていきます。

停電は社会インフラの大半を崩壊させていきます。水道、通信、物流、交通が止まった現代社会は、自給自足できなくなっている分、中世以下になってしまうようです。暴動、火災、疫病が被害を拡大させ、ついに核燃料を冷却できなくなった原発メルトダウンを起こすに至るのです。

これがウイルス・テロであることにいち早く気づいたイタリア人ハッカーが、スウェーデン人のEU職員を通じて、フランス人のユーロポールを動かし、ドイツ人の連邦刑事局の刑事を現場に急行させるあたりは、いかにもEUらしいですね。善意のハッカーが逆に犯人一味でないかと疑われ、捜査当局からもテロリストからも狙われる苦境を脱していく過程が、物語の本線です。

本書のヒントになったのはもちろん日本で起きた大災害ですが、IoTが進んだEUという共同体を舞台としたことが、パニックの新しい形を生み出したようです。このような事態が起こらないよう、危機管理面もアップデートされていて欲しいものです。

2017/12