りぼんの読書ノート

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ユージニア(恩田陸)

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いかにも恩田さんらしい作品です。金沢市の名家・青澤家を襲った大量毒殺事件の犯人は、犯行を告白した遺書を残して自殺した青年だったのでしょうか。事件から数十年たった後に発覚した「見落とされていた真実」とは何だったのでしょうか。

最も疑わしいと思われたのは、青澤家の長女で当時中学1年生の青澤緋紗子。カリスマ性を持つ盲目の美少女は、刑事からも犯人と直感されるほどの孤高の気高さを有していたのですが、もちろん証拠はありません。緋紗子に憧れていた2年後輩の雑賀満喜子は、事件の10年後に『忘れられた祝祭』という小説を著して、緋紗子が犯人ではないかとほのめかしました。

物語は、事件に関わりを持った人たちの独白で綴られていきます。満喜子の調査を手伝った後輩の男性、危うく被害を免れた満喜子の兄、自殺した男性をめぐる証言、事件を担当した女性刑事。そしてさらに20年後、当時見落とされていた「群青の部屋と百日紅の花」に関わる真実が明らかにされるのですが・・。

真相は明らかにされないままですが、著者の意図することを読み解くことは可能です。手術で目が見えるようになっていた緋紗子が「普通の中年女」でしかなかったことは、彼女の不思議な魅力の根源が失われたと読むべきですね。そして「すべてを聞いていた」という女性の存在こそが、鍵となるのでしょう。

タイトルの「ユージニア」とは「友人+ユートピア」。友と2人だけの楽園という言葉にも、ヒントは隠されています。

2017/4